結論から書きます。本作は実際に起きた事件を題材にしていて、主人公のリジー・ボーデンも実在の女性です。ただし事件そのものは、130年以上たった今も犯人が確定していません。
1892年8月4日、マサチューセッツ州フォールリバーのボーデン家で、当主アンドリューと後妻アビーが斧で殺害されました。1週間後に娘のリジーが逮捕され、翌1893年の裁判で無罪になります。この記事では、事件の経過と裁判の記録、そして実在の人物とドラマの役の対応を整理しました。
本編を視聴せずに書いているため、ドラマがこの史実をどう作り変えたかは扱っていません。公式と制作陣が明かしている「描き方」までにとどめます。
→ 登場人物の関係は Netflix『モンスター: リジー・ボーデンの物語』相関図|登場人物9人の関係を整理 で整理しています。
※本記事は1892年の事件と裁判の結果という史実に触れます。ドラマ本編のネタバレは記載していません。
『モンスター: リジー・ボーデンの物語』は実話に基づいている?
実話に基づいています。本作は Netflix の実録犯罪アンソロジー『モンスター』の第4弾です。ジェフリー・ダーマー、メネンデス兄弟、エド・ゲインを描いた3作に続き、シリーズで初めて女性を主人公に据えました。
Netflix 日本の告知文は、本作を「1892年に父と継母を斧で斬殺した容疑で告発された女性リジー・ボーデンの真実と狂気に迫る」と紹介しています。全8話の脚本は、イアン・ブレナンさんが単独で手がけました。
ただ、ここで押さえておきたいのは「容疑で告発された」という言い方です。史実のリジーは裁判で無罪になっていて、法のうえでは犯人が確定していません。実在の事件を土台にしながら、記録が答えを出していない部分をどう描くのか。そこが本作の大きな焦点になりそうです。
実在の人物とドラマの登場人物の対応
ムラサキまずは、対応をチェック
| ドラマの役(俳優) | 実在の人物 | 史実での立場 |
|---|---|---|
| リジー・ボーデン(エラ・ビーティ) | リジー・アンドルー・ボーデン(1860〜1927) | ボーデン家の末娘。事件当時32歳 |
| アンドリュー・ボーデン(チャーリー・ハナム) | アンドリュー・ジャクソン・ボーデン(1822〜1892) | 実業家。事件の被害者 |
| アビー・ボーデン(レベッカ・ホール) | アビー・ダーフィー・グレイ・ボーデン(1828〜1892) | アンドリューの後妻。事件の被害者 |
| エマ・ボーデン(ビリー・ロード) | エマ・レノラ・ボーデン(1851年頃〜1927) | リジーの姉。事件当日はフェアヘイヴンに滞在 |
| ブリジット・”マギー”・サリヴァン(ヴィッキー・クリープス) | ブリジット・サリヴァン | 当時25歳の住み込みメイド。アイルランドからの移民 |
| ジョン・モース(ジョーイ・ポラーリ) | ジョン・ヴィニカム・モース | 姉妹の母方の叔父。事件の前夜にボーデン家へ宿泊 |
| ナンス・オニール(ジェシカ・バーデン) | ナンス・オニール(1874〜1965) | 舞台女優。1904年にリジーと出会う |
| アイリーン・ウォーノス(サラ・ポールソン) | アイリーン・ウォーノス(1956〜2002) | フロリダの連続殺人犯。リジーとの史実上の接点はない |
| エリザベート・バートリ(ヴィッキー・クリープス/二役) | バートリ・エルジェーベト(1560〜1614) | ハンガリーの貴族。リジーとの史実上の接点はない |
アンドリューとアビー、リジーとエマの一家4人に、叔父のジョン・モースとメイドのブリジット。この6人は名前も立場も、史実の人物にそのまま対応しています。公式のキャスト発表を見る限り、一家と同居人は実在の顔ぶれで組まれています。
史実との時期の差に注意したいのが、ナンス・オニールです。史実のリジーが彼女と出会ったのは1904年で、事件の12年後にあたります。ドラマでどの時期に登場するかは、本編を見ていないため、この記事では扱っていません。
アイリーン・ウォーノスとエリザベート・バートリは、そもそも生きた時代が違います。ウォーノスはリジーの約100年後の人物で、バートリは16〜17世紀ハンガリーの貴族です。Netflix もウォーノスについて「リジーの物語の直接の一部ではない」と説明しています。
事件の舞台、フォールリバーのボーデン家
アンドリュー・ボーデンは、裕福な実業家でした。家具や棺桶の製造から財を成し、不動産開発や銀行役員にも手を広げています。遺産は約30万ドル。2025年の貨幣価値に直すと、約1,080万ドルにあたるとされます。
一家が暮らしたのは、セカンド・ストリート92番地の家です。裕福でありながら屋内配管がなく、富裕層が住む高台の地区(ザ・ハイランズ)でもありませんでした。調べていて意外だったのが、この落差なんです。
家族の構成も少し込み入っています。リジーとエマの実母サラは1863年に亡くなり、その3年後にアンドリューはアビーと再婚しました。住み込みのメイドは、アイルランドから来た25歳のブリジット・サリヴァン。ボーデン家では「マギー」と呼ばれていました。
事件の前には、家の空気を重くする出来事が重なっていました。
- 事件前の数か月、アンドリューがアビー側の親族へ不動産を贈与したことをめぐって、家族内の緊張が高まっていた
- 事件前の数日間、一家全員が激しい体調不良に見舞われた。家族の友人は、コンロに置き放しの羊肉が原因と見ていた
- 事件の前日、リジーが薬局で青酸を買おうとして断られた。薬局の店員の証言による
3つめの青酸の件は、のちの裁判で証拠から外されています。
1892年8月4日に起きたこと
ムラサキ事件の日の流れを、時刻順に並べます。
| 時刻 | 出来事 |
|---|---|
| 8時48分ごろ | 前夜から泊まっていた叔父ジョン・モースが外出 |
| 9時〜10時30分 | アビーが2階の客間でベッドを整えている最中に襲われる。頭部への打撃は18〜19回 |
| 10時30分ごろ | アンドリューが外出先から帰宅。玄関の鍵が詰まり、ブリジットが開ける |
| 11時ごろ | 1階の居間のソファで横になっていたアンドリューが襲われる。打撃は10〜11回 |
| 11時10分ごろ | リジーがブリジットを呼び、父の死を告げる。その後、2階でアビーの遺体が見つかる |
ブリジットは、アンドリューのために玄関を開けたとき、2階からリジーの笑い声を聞いたと証言しています。リジーがブリジットを呼んだときの言葉は「父さんが死んでる。誰かが入ってきて殺した」でした。
リジー自身は、そのあいだ納屋に20〜30分いたと説明しています。姉のエマは、この日フェアヘイヴンに出かけていて家にいませんでした。
逮捕、そして1893年6月の無罪判決
ムラサキ無罪判決までの流れです。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 1892年8月7日 | リジーが台所のかまどでドレスを燃やす。友人アリス・ラッセルが目撃 |
| 1892年8月(逮捕まで) | 検死審問。リジーの証言は不安定で矛盾が多かった |
| 1892年8月11日 | 逮捕状が出され、リジーが逮捕される |
| 1892年12月2日 | 大陪審が起訴 |
| 1893年6月5〜20日 | ニューベッドフォードで公判 |
| 1893年6月20日 | 無罪の評決 |
ドレスを燃やしたとき、リジーは「ペンキが付いた古いものを燃やす」と説明していました。
裁判は3人の判事で開かれています。判事はアルバート・メイソン首席判事とケイレブ・ブロジェット判事、ジャスティン・デューイ判事です。陪審への説示は、デューイ判事が担当しました。
検察側はホージア・ノールトンとウィリアム・ムーディです。弁護側にはアンドリュー・ジェニングス、メルヴィン・アダムズ、元州知事のジョージ・ロビンソンが立ちました。
争点になったのは、主に次の4つです。
- 地下室で見つかった、柄の無い手斧の頭。灰が意図的に付けられたように見えた
- 返り血の付いた衣服が見つかっていない
- 検死審問でのリジーの証言は、証拠から除外された
- 事件前日の青酸購入未遂も、証拠から除外された
陪審は全員男性でした。評議は1時間半以内で終わり、評決は無罪です。当時の新聞は、評議40分・投票1回と伝えています。
無罪のあとのリジー・ボーデン
無罪になったリジーは、姉エマとともに「ザ・ヒル」地区の邸宅を買い、「メープルクロフト」と名付けました。住み込みのメイドや家政婦、御者を雇う暮らしです。名前も「リズベス・A・ボーデン」と改めています。
ただ、地元では社会的に疎外されていきます。1897年には、プロヴィデンスで万引きの疑いをかけられました。
1904年、リジーはボストンで舞台女優のナンス・オニールと出会います。翌1905年、オニールのために開いたパーティをめぐって姉妹は口論になりました。エマは家を出て、以後ふたりが会うことは二度とありませんでした。
リジーは1927年6月1日、肺炎のため66歳で亡くなりました。遺産は25万ドルを超え、そのうち3万ドルをフォールリバーの動物救護連盟に遺しています。
エマが亡くなったのは、その9日後の6月10日です。22年間会わなかった姉妹は、オークグローブ墓地に並んで埋葬されています。
童謡「リジー・ボーデンは斧を取り」と40回という数字
事件のあと、リジー・ボーデンの名は縄跳び唄として広まりました。
Lizzie Borden took an axe / And gave her mother forty whacks. / And when she saw what she had done / She gave her father forty-one.
日本語版 Wikipedia は、これを「リジー・ボーデンは斧を取り、母さんを40回打った。自分がした結果に気づき、今度は父さんを41回打った」と訳しています。
ただ、この数字は史実と合いません。実際の打撃は、継母アビーが18〜19回、父アンドリューが10〜11回でした。そもそも唄の「mother」は実母ではなく、継母です。
唄の出どころについて、日本語版 Wikipedia は「新聞を売るためにライターがでっち上げたもの」と書いています。英語版は、作者不詳の書き手が新聞を売るために作ったと「伝えられる」という書き方で、断定はしていません。
ライアン・マーフィーさんは、幼稚園の合唱コンクールでこの唄を歌って一等になったと語っています。それが「人生で初めて勝ち取ったもの」だったそうです。題材との縁は、ずいぶん昔からあったんですね。
公式・制作陣が予告している描き方
ここで扱うのは、公式と制作陣が明かしている範囲です。ドラマが史実を実際にどう変えたのかは、本編を見るまで分かりません。
公式紹介文に見る「犯人」の扱い
Netflix 米国の作品ページにある短い紹介文は、リジーが両親を斧で殺すと書いています。一方で Netflix の公式サイト Tudum のログラインは、同じ出来事を「未解決の惨殺事件」と呼んでいます。
史実では無罪で、法のうえでは未解決の事件です。記録が答えを出していないところに、ドラマがどこまで踏み込むのか。公式の文面からうかがえるのは、ここまでになります。
リジーとメイドのブリジットの関係
脚本のイアン・ブレナンさんは、リジーとブリジットが同性愛の関係にあったという説を探ると語っています。1984年の小説『Lizzie』(著者エヴァン・ハンター)が唱えた見方です。米 Vanity Fair のインタビュー(Boston.com が紹介)では「証拠が無いことは、無かったことの証拠ではない」と話しています。この関係は「本作で取る飛躍のなかでは小さいほう」だとも述べています。
史実のブリジット・サリヴァンは、事件のあとモンタナ州に移って結婚し、1948年にビュートで亡くなっています。制作陣の発言どおりなら、ドラマが描くふたりの関係は、記録に残っていない部分に踏み込む試みになりそうです。
別の時代の「モンスター」を織り込む
ライアン・マーフィーさんは、本シーズンに「3人の偉大なモンスターがいる」と語っています。リジー・ボーデン、アイリーン・ウォーノス、エリザベート・バートリの3人です。本作は「女性 対 システム」を描き、「何が彼女たちにそうさせたのか。もしやったのなら、なぜやったのか」を問う番組だと説明しています。
Netflix の公式解説によれば、サラ・ポールソンさん演じるウォーノスは、数十年後を舞台にした場面で大きな役割を担います。リジーの遺産に触発された存在として描かれるそうです。史実の再現というより、時代をまたいだ構成で組まれていることが分かります。
女性の怒りと抑圧というテーマ
主演のエラ・ビーティさんは、本シーズンが女性の怒りと抑圧を掘り下げる作品だと語っています。今日でも驚くほど切実に感じる、とも話していました。ヴィクトリア朝の家に閉じ込められた女性として、リジーを捉え直す視点が打ち出されています。
Filmarksの感想も、引用させていただきます。
実際の事件の詳細を調べて鑑賞しましたので分かりやすかったと思いますが予備知識なくては分かりづらいのではないでしょうか
(Filmarks・ひろ312さんのレビューより)
誇張されたドラマ部分の方が大きいんだろうけど…
アイリーンウォーノスが出てきた時はハテナだったけど、抑圧された女性像と犯罪について語りたかったのかな
(Filmarks・モロッコヨーグルさんのレビューより)
ドラマが実際にどこを変えたのかは、今後この記事に追記していきます。
『モンスター: リジー・ボーデンの物語』実話まわりのよくある質問
Q. リジー・ボーデンはなぜ無罪になったの?
理由をひとつに絞ることはできません。ただ、裁判の争点を見ると輪郭は見えてきます。凶器とされた手斧の頭には柄がなく、返り血の付いた衣服も見つかりませんでした。
さらに、検死審問での不安定な証言と、事件前日の青酸購入未遂は、どちらも証拠から外されています。全員男性の陪審は、1時間半以内の評議で無罪と判断しました。
Q. 結局、誰が殺したの?
分かっていません。法のうえでは、犯人は確定していない事件です。
事件の物証を所蔵するフォールリバー歴史協会(Fall River Historical Society)は、リジーについて「適正な手続きにより全ての容疑で無罪となった」と記しています。そのうえで、この事件を「史上最も有名な未解決ミステリーの一つ」と呼んでいます。
Q. メイドのブリジット・サリヴァンはその後どうなった?
事件のあと、モンタナ州に移って結婚し、1948年にビュートで亡くなっています。事件当日は家にいて、帰宅したアンドリューのために玄関を開けた人物です。ドラマでは、リジーとの恋愛関係を描くと制作陣が語っています。
Q. アイリーン・ウォーノスはリジー・ボーデンと関係があるの?
史実上の接点はありません。アイリーン・ウォーノスは、1989年から90年にかけてフロリダで男性7人を殺害した連続殺人犯です。2002年に死刑が執行されています。
本作ではサラ・ポールソンさんが演じます。Netflix は、ウォーノスを「リジーの物語の直接の一部ではない」としたうえで、リジーの遺産に触発された存在として描くと説明しています。ちなみにウォーノスは、2003年の映画『モンスター』でシャーリーズ・セロンさんが演じ、アカデミー賞主演女優賞を受けた題材でもあります。
Filmarksの感想も、引用させていただきます。
…現実ではアイリーンがリジーを崇拝してたとかそういう情報は無いようだね まあエンタメとしてこの2人に繋がりを持たせるのは面白かったよ…
(Filmarks・2947sjdさんのレビューより)
Q. 事件の物証は今も残っている?
残っています。フォールリバー歴史協会(451 Rock Street)が、裁判の物証や現場写真、凶器とされる手斧を所蔵しています。ただし同館は改修のため休館中で、再開は2027年春の予定です。
Q. これまでにも映像化されている?
されています。2015年には『リジー・ボーデン 美しき殺人鬼』(The Lizzie Borden Chronicles)が作られました。2018年には、クロエ・セヴィニーさんがリジーを演じた映画もあります。
『モンスター: リジー・ボーデンの物語』の配信情報
本作は Netflix の独占配信で、2026年9月17日に全8話が一挙に公開されました。ほかの配信サービスでは見られません。配信状況の表は、相関図記事の「どこで見れる?」の節にまとめています。
まとめ
リジー・ボーデン事件は、1892年8月4日にフォールリバーで起きた実在の事件です。父と継母が斧で殺され、娘のリジーが逮捕され、翌年の裁判で無罪になりました。柄の無い手斧、見つからない返り血、除外された証言。法のうえでは、いまも犯人は確定していません。
『モンスター: リジー・ボーデンの物語』は、この答えの出ていない事件を題材にしています。メイドのブリジットとの関係や、別時代の「モンスター」を織り込む構成も、制作陣が明かしています。史実のどこまでが描かれ、どこからが作り手の飛躍なのか。事件の年表を頭に入れてから見ると、その境目がぐっと見えやすくなるはずです。
登場人物の立場と関係は、相関図の記事で整理しています。
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