週末に「何か重い映画が見たい」と思って、Netflixを開いたことはありませんか。笑えるわけでもなく、スカッとするわけでもない。でも見終わった後にずっと頭から離れない作品を探している方に、この映画を知ってほしいです。
『愛に乱暴』は、吉田修一さんの同名小説を映画化したヒューマンドラマです(公式の分類では「サスペンス」と)。2024年8月に劇場公開され、現在はNetflix他で配信中。主演の江口のりこさんは本作で第38回高崎映画祭・最優秀主演俳優賞を受賞しました。夫の実家の離れで「丁寧な暮らし」を続ける主婦が、静かに壊れていく105分の物語です。Filmarksでは9,300件を超えるレビューが寄せられています。
この記事では、江口のりこさんの圧巻の演技から小泉孝太郎の意外すぎる変貌ぶりまで、見どころを4つに分けてお伝えします。後半ではネタバレありの考察にも踏み込んでいます。
※この記事にはネタバレが含まれます。未視聴の方はご注意ください。
『愛に乱暴』の基本情報
あらすじ
結婚8年目の初瀬桃子は、夫・真守の実家の敷地内に建つ離れで暮らしています。石鹸教室の講師をしながら「丁寧な暮らし」に勤しむ毎日。ただ、義母との微妙な距離感や夫の無関心に、心は少しずつすり減っていました。
そんな中、近隣で不審火が相次ぎ、愛猫が姿を消し、夫の不倫が浮かび上がります。小さな綻びが連鎖するように、桃子の日常は静かに崩壊していきます。
配信情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 配信サービス | Netflix(見放題配信中) |
| 劇場公開日 | 2024年8月30日 |
| 上映時間 | 105分 |
| ジャンル | サスペンス、ヒューマンドラマ |
| 主演 | 江口のりこ(初瀬桃子) |
| 監督 | 森ガキ侑大 |
| 原作 | 吉田修一『愛に乱暴』(新潮文庫) |
| 脚本 | 森ガキ侑大、山﨑佐保子、鈴木史子 |
| 主要キャスト | 小泉孝太郎(初瀬真守)、風吹ジュン(初瀬照子)、馬場ふみか(三宅奈央) |
| 音楽 | 岩代太郎 |
| Filmarks評価 | 3.4点(5点満点) |
| 制作 | 東京テアトル |
相関図で整理する『愛に乱暴』
物語の人間関係を整理するため、視聴後の振り返り用としてご覧ください。
graph TD
%% --- デザイン定義(見たログ専用) ---
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%% --- ノード定義 ---
Momoko("初瀬桃子
(江口のりこ)"):::main
Mamoru("初瀬真守
(小泉孝太郎)"):::key
Teruko("初瀬照子
(風吹ジュン)"):::key
Nao("三宅奈央
(馬場ふみか)"):::enemy
Clerk("店員・リー
(水間ロン)"):::sub
Cat("愛猫
(ピーちゃん)"):::sub
%% --- 関係性の定義 ---
%% 桃子を中心とした関係
Momoko <-->|夫婦
無関心・会話なし| Mamoru
Momoko <-->|嫁姑
敷地内同居・微妙な距離感| Teruko
Momoko -->|小さな光
心の拠り所| Clerk
Momoko ---|大切| Cat
%% 真守の関係
Mamoru -->|不倫
妊娠| Nao
Mamoru ---|親子| Teruko
%% 補足的な関係
Teruko -.->|孫を妊娠?| Nao
ムラサキ視聴後にまた来てね。
江口のりこの”静かな怪演”——表情だけで語る桃子の内面
この映画の最大の魅力は、江口のりこさんの演技そのものです。
序盤の桃子は、どこにでもいそうな主婦として描かれます。「丁寧な暮らし」を大切にし、義母にも穏やかに接する。でもその表情のどこかに、言葉にならない疲弊がにじんでいるんです。それが映画を追うごとに、少しずつ形を変えていきます。
個人的に驚いたのは、感情を爆発させるシーンよりも「耐えている」シーンの迫力でした。夫に無視されても、義母に嫌味を言われても、桃子は笑顔を崩しません。その笑顔がだんだん薄く、硬くなっていく。その変化を江口さんは表情だけで見せてくれます。
高崎映画祭で最優秀主演俳優賞を受賞したのも納得です。静かに壊れていく人間のリアルさに画面から目が離せませんでした。
“小泉孝太郎感ゼロ”——夫・真守役の衝撃の変貌
この映画の小泉孝太郎は、私の知っている小泉孝太郎ではありませんでした。(あえて呼び捨てにさせていただきます)
テレビで見る明るく爽やかなイメージとは正反対。妻への関心を完全に失い、会話すらまともにしない夫・真守。食卓にいても、存在がそこにない。そんな”透明な冷たさ”を持つ男を、小泉孝太郎さんが見事に演じています。
特に印象的だったのは、感謝の言葉がまったく出てこないところです。「ありがとう」も「いただきます」も言わない。桃子が手をかけた食事を無言で食べ、無言で席を立つ。
悪意があるわけではなく、ただただ妻に関心がない。この「悪気のない加害者」という造形が、小泉さんのもともとの人の良さと混ざり合って、独特の気持ち悪さを生んでいました。
俳優としての新しい一面を見せてもらった気がします。ここまで化けるとは思っていませんでした。
義母・照子の絶妙なリアルさ——敵にも味方にもなれない存在
風吹ジュンさんが演じる義母・照子は、この映画の隠れた核心かもしれません。
嫌な人なのか、いい人なのか。見ている間ずっと判断がつかないんです。桃子に対して小さな嫌味を言いつつも、気遣いもみせる。息子の不倫を知っているのかいないのか、態度がはっきりしません。この「どっちつかずの感じ」が、ものすごくリアルでした。
世の中の嫁姑関係って、ドラマのように分かりやすい悪意ばかりではないはずです。むしろ「悪気はないけど、じわじわ追い詰められる」ほうが多いのではないでしょうか。照子はまさにその典型。優しさと無神経さが同居していて、桃子は怒ることもできず、逃げることもできない。
風吹さんの柔らかい佇まいが、この役の恐ろしさを何倍にもしています。いい人に見える人ほど怖い。そんな日常の真理を、この義母は体現していました。
※※※ここからネタバレ注意※※※
物語の核心に触れる内容を含みます。未視聴の方はご注意ください。
コンクリートの隙間から咲く花——桃子が見つけた小さな光
この映画、終始見ているのが辛い作品でした。ただ、その暗闇の中にほんの小さな光が差しています。
その光のひとつが、スーパーの男性店員の存在。名前もほとんど出てこない、物語の脇にいるだけの人物です。でも桃子が唯一「ひとりの人間」として扱われる瞬間を作ってくれます。
夫からは無視され、義母からは「嫁」としてしか見られない。そんな桃子にとって、この何気ないやり取りがどれほどの救いだったか。コンクリートの隙間から生えている花のような、小さいけれど確かな存在でした。
もうひとつ忘れられないのが、桃子が不倫相手の家を訪ねるシーンです。家の中から何かが割れた音がする。桃子は一瞬躊躇しますが、すぐに踵を返します。
憎い相手であっても、子供を身ごもっている女性を放っておけない。その瞬間に見えたのは、壊れかけた桃子の中にまだ残っている優しさでした。思わず胸が締めつけられてしまいました。
この映画は「壊れていく話」であると同時に、「それでも人は小さな光を見つけられる」ことを示唆しています。
こんな人におすすめ
日常に潜む”見えない暴力”を描いたこの作品は、次のような方におすすめです。
✔ 重厚な人間ドラマが見たい方:派手な展開はなくても、心に深く刺さる映画を探している方にぴったりです。
✔ 江口のりこの演技を堪能したい方:高崎映画祭受賞の怪演は、この一作だけで観る価値があります。
✔ 『永い言い訳』のような作品が好きな方:色味やトーンが近く、人間の弱さを静かに描くスタイルが似ています。
✔ 夫婦関係や家族の問題に関心がある方:嫁姑関係、夫の無関心、不倫など、誰にでも起こりうる問題が丁寧に描かれています。
視聴者の反応・評価まとめ
Filmarksでは3.4点(5点満点)で、レビュー数は9,300件を超えています。
江口のりこさんの演技への評価が圧倒的です。「冒頭からずっと不穏さと狂気を感じる時間が続く映画。静かにチリチリ燃えてたものが爆発した時の江口のりこの圧巻の凄み」と、その迫力を絶賛する声が目立ちます。
小泉孝太郎については「クズ夫の役、小泉孝太郎かーい。似合いすぎ」と、意外なハマり役に驚く声もありました。
一方で「カメラワークがずっとホラー映画。ひとつの歪みからゆっくりと壊れていく過程がしんどかった」という意見も。ストレスフルな描写が続くため、心の余裕があるときに観ることをおすすめします。
まとめ
『愛に乱暴』は、日常という名の檻に閉じ込められた女性の崩壊と、それでも残る人間の温かさを描いた作品です。江口のりこの圧巻の演技、小泉孝太郎の衝撃的な変貌、風吹ジュンの絶妙な義母像。三者が織りなす緊張感は、105分間途切れることがありません。
見終わった後、しばらく無言になってしまう映画でした。でも、その余韻こそがこの作品の力だと思います。週末の夜、じっくり向き合える時間があるときにぜひ観てみてください。
ムラサキ二人でも見ると気まずい系。

