「グロいのは苦手だけど、話題の映画は気になる」という方、正直に言います。この映画は、グロいです。ただ、それだけじゃないんです。
Amazonプライム・ビデオで2025年12月19日から配信中の『サブスタンス』は、フランス人女性監督コラリー・ファルジャが手がけたボディホラーの問題作です。第77回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、第97回アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。作品賞・監督賞・主演女優賞を含む5部門にノミネートされました。主演のデミ・ムーアはゴールデングローブ賞主演女優賞も獲得し、世界中で「傑作」と「悲鳴」が同時に上がった、2020年代を代表する劇薬映画です。
この記事では、見どころをネタバレなしとネタバレありに分けて解説します。核心に触れるセクションには警告を設けているので、視聴後の振り返りにもお使いください。
※この記事にはネタバレが含まれます。未視聴の方はご注意ください。
『サブスタンス』の基本情報
あらすじ
かつてオスカーに輝き、ハリウッドのトップスターとして活躍したエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)。50歳を過ぎた今、人気エアロビクス番組のホストを「賞味期限切れ」という理由で解雇されてしまいます。
絶望した彼女のもとに届いたのが、謎の薬「サブスタンス」です。一度の注射で「より若く、より美しい」分身を生み出せるというのですが、条件は一つ。「7日ごとに必ず入れ替わること」。
こうして誕生した若き分身「スー」(マーガレット・クアリー)と、エリザベスの二重生活が始まります。
配信情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 配信サービス | Amazonプライム・ビデオ(見放題独占配信) |
| 配信開始日 | 2025年12月19日 |
| 劇場公開日 | 2025年5月16日 |
| 上映時間 | 141分 |
| ジャンル | ホラー |
| 主演 | デミ・ムーア(エリザベス・スパークル) |
| 監督・脚本 | コラリー・ファルジャ |
| 主要キャスト | マーガレット・クアリー(スー)、デニス・クエイド(ハーヴェイ) |
| 製作国 | フランス・イギリス |
| 配給 | ギャガ |
| レイティング | R15+ |
| Filmarks評価 | 3.9点(5点満点) |
| 受賞歴 | 第77回カンヌ国際映画祭 脚本賞/第97回アカデミー賞 メイクアップ&ヘアスタイリング賞/第82回ゴールデングローブ賞 主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門) |
相関図で整理する『サブスタンス』
物語の人間関係を整理するため、視聴後の振り返り用としてご覧ください。
graph TD
%% --- デザイン定義(見たログ専用) ---
classDef main fill:#5a4474,stroke:none,color:#ffffff,font-weight:bold;
classDef enemy fill:#ffffff,stroke:#9E2A2B,stroke-width:1.5px,color:#333;
classDef sub fill:#ffffff,stroke:#d1d5db,stroke-width:1px,color:#555;
classDef key fill:#ffffff,stroke:#1F8A9E,stroke-width:1.5px,color:#333;
%% ノード定義
Harvey("ハーヴェイ
(デニス・クエイド)"):::enemy
Elisabeth("エリザベス
(デミ・ムーア)"):::main
Substance("<サブスタンス>
(謎の薬)"):::sub
Sue("スー
(マーガレット・クアリー)"):::key
Monstro("エリザベス・スー
(融合した怪物)"):::sub
%% 関係性定義
Harvey -->|視聴率至上主義| Elisabeth
Harvey -->|クビ宣告・老害| Elisabeth
Elisabeth -.->|見返したい| Harvey
Elisabeth -->|絶望の末に使用| Substance
Substance -->|細胞分裂| Sue
Elisabeth <-->|一週ごとの入れ替わり| Sue
Elisabeth -->|背中から出産| Sue
Sue -->|若さと美貌| Harvey
Harvey -->|新しい金脈| Sue
Sue -->|脊髄液を搾取| Elisabeth
Elisabeth -->|若さへの嫉妬| Sue
Sue -->|老いへの嫌悪| Elisabeth
Elisabeth & Sue -->|ルール崩壊・融合| Monstro
ムラサキ視聴後にまた来てね。
聴覚まで襲うASMR的ボディホラー
本作最初の武器は、「音」の気持ち悪さです。エビを食べる音、殻を剥く音、咀嚼する音。すべてがASMRのように強調されていて、耳の奥を直接いじられるような生理的嫌悪感があります。
特にトラウマ級なのが、「サブスタンス」を使うシーンです。太い針が皮膚を突き破る音、蛍光イエローの液体が血管を流れる感覚、背骨がボキボキ変形し、背中の皮がメリメリ裂けていく音。目を閉じても音から逃げられません。聴覚への暴力なんですよね。
でも、画面はびっくりするほどスタイリッシュです。『シャイニング』を思わせる幾何学的な廊下、真っ白で清潔なバスルーム。その白と飛び散る血の赤、薬の蛍光イエローが現代アートのようなコントラストを作っています。「気持ち悪いのに目が離せない」という矛盾した感覚こそ、本作の罠でもあり魅力でもあります。
デミ・ムーアの「老い」と向き合う覚悟
本作を語るとき、デミ・ムーアの存在は絶対に外せません。劇中、エリザベスはデートに向けて念入りにメイクをします。完璧に仕上げてドレスを着て鏡を見る。でも何かが違う。気に入らないからメイクを落として、また一からやり直す。口紅の色を変え、髪を変え、それでも鏡に映るのは「老いたエリザベス」のまま。結局デートには行けず、部屋に引きこもってしまいます。
このシーンが、個人的に一番刺さりました。ホラー以上の怖さと切なさがあって、しばらく頭から離れなかったです。
デミ・ムーアは、たるんだ皮膚も浮き出た血管も隠すことなく、カメラの前に晒しています。そこにあるのは性的な意味での「裸」ではありません。「かつて世界一美しいと言われた女」が、老いと向き合い戦っている姿そのもの。監督自身も40代を迎えたとき、強い喪失感に囚われたと語っています。デミ・ムーアのキャリアとも重なって、フィクションを超えたドキュメンタリーのような迫力がありました。
マーガレット・クアリーという無邪気な悪魔
エリザベスの背中から生まれる分身・スーを演じるのがマーガレット・クアリー。スーはエリザベスの「理想の自分」。肌は陶器のようにツルツルで、エアロビの番組で踊るシーンは生命の輝きそのものです。ただ、スーには「中身」がない。「もっと見られたい」「もっと愛されたい」という欲望だけが底なしにあって、本体のエリザベスを「汚い老婆」と見下す感情を隠そうともしません。
マーガレット・クアリーが見せる、あの無邪気で残酷な笑顔。「だって私は美しいから、何をしても許されるでしょ?」と言わんばかりの態度は、若さという特権が持つ暴力性をこれでもかと見せつけてきます。
デミ・ムーアと互角に渡り合う演技は、見る価値があります。「自分のために生まれた自分」が「本体の自分」を食い殺そうとするこの構造は、今風に言うと「ルッキズム(外見至上主義)への風刺」なんでしょうか。
※※※ここからネタバレ注意※※※
物語の核心に触れる内容を含みます。未視聴の方はご注意ください。
歯が抜けた瞬間が終わりの始まり
スーは「もっと輝きたい」という欲望に負けて、「7日ごとの交代」というルールを破り始めます。「あと数時間だけ」「今回だけ」。そうやって破るたびに、眠っているエリザベスから生命力が吸い取られ、老化が一気に加速する。そしてある日、エリザベスの歯がぽろりと抜け落ちます。
あの瞬間が、個人的にこの映画で最も恐ろしいシーンでした。派手な出血があるわけでも、特別な演出があるわけでもない。ただ、歯が一本抜ける。それだけなのに、取り返しのつかない感じが全身に広がって、「終わりの始まり」というのが直感でわかってしまいます。
目覚めるたびに増す老化。指が干からびて、髪は抜け落ち、歩くのもやっとになっていくエリザベス。鏡を見て絶叫するシーンは、電車の窓に映った自分を見た時の上位互換でした。「理想の自分」になれない「今の自分」を殺したい、「今の自分」を見ない「理想の自分」を許せない。行ったり来たりの自己矛盾。どうやって抜け出すのか。
映画史に残る血の洪水と怪物の誕生
スーに殺されかけたエリザベスと、老化で崩壊寸前のスー。追い詰められた二人が選んだのは、禁断の「融合」です。お互いの身体を混ぜ合わせた結果、現れたのが異形の怪物「エリザベス・スー」。背中にエリザベスの歪んだ顔が埋まり、体中から手足が飛び出した、言い表しようのない肉塊です。
それでも「愛されたい」「見てほしい」という欲求だけは消えません。怪物はスパンコールのドレスを無理やり着て、ニューイヤーズ・イブのステージに立ちます。そこで始まるのが、『キャリー』超えの血の洪水です。
ここ、正直に言うと、怖さを通り越して笑ってしまいました。過剰すぎて、バカバカしくて。でもその笑いの裏に、あまりにも悲しい何かがある。最後、怪物は崩れ落ちてただの肉片(顔あり)となり、輝く星空と人々の称賛の元、満面の笑みで果てる。エリザベスがようやく「美しさの呪縛」から解放されて、本物のスターになれた瞬間だったのかもしれません。めでたしめでたし。
こんな人におすすめ
『サブスタンス』は万人向けではありません。でも、刺さる人には一生忘れられない映画になります。
✔ 『ザ・フライ』やクローネンバーグ作品が好きな方:肉体変容と内臓に響く恐怖が好きなら、これは必修です。
✔ 「美しさの呪い」に疲れを感じている方:SNSを見て落ち込んだり、鏡の前でため息をついたりする方に。物理的にえぐられた上で、どこかで救いにもなる映画です。
✔ デミ・ムーアのキャリアを知っている方:『ゴースト』の彼女を知っていると、この映画の重みが倍になります。
✔ 刺激が欲しい方:最近の映画はもの足りないと感じている方に、この劇薬を試してほしいです。副作用は保証しませんが。
ボディホラーが苦手な方には本当にきつい内容なので、無理は禁物です。
視聴者の反応・評価まとめ
Filmarksでは3.9点(5点満点)を獲得しており、53,000件を超えるレビューが投稿されています。
ポジティブな声として、「デミ・ムーアの怪演が凄すぎて圧巻。美しさへの執着を秀逸に表現していて釘付けにされた」(オバッキオさん・4.5点)、「メッセージ性がどうこうの前に面白すぎる、グロいけどトラウマ的なグロさではない」(Canaさん・4.4点)といった声がありました。
一方、「批評として成立するのか、それともただの悪趣味なB級映画か」と戸惑いながらも「ラストシーンで『何でもいいや、おもしれー映画』となった」(防人さん・2.5点)という声も。評価は割れますが、見た人が何かを語らずにいられない引力は共通しているようです。
まとめ
『サブスタンス』はグロ注意のホラー映画ではありますが、デミ・ムーアという一人の女優の生き様を刻んだ作品でもあります。目を背けたくなるような「老い」の現実にどう向き合うか。アンチエイジンガー必見の一本です。
ムラサキコメディ部門受賞はある意味納得。

